彫金工芸 菊広
〒023-1131 奥州市江刺愛宕字前中野224番地1 TEL:0197-35-0381
芸術性の高い彫金細工を専門に
伝統的工芸品に位置づけられる岩谷堂箪笥の特徴のひとつが、彫金の美しさ。その彫金を専門に手掛けるのが、菊広の工房です。
岩谷堂箪笥生産に携わる企業の中で、ただ1社、彫金金具を専門に生産しています。
岩谷堂箪笥の魅力・・・その豪華絢爛な金具
岩谷堂箪笥の最大の特徴はその豪華絢爛な金具にあります。その豪華さは初代仙台藩主の伊達正宗の気風に由来するとも言われていて、龍や獅子、牡丹、鶴、亀などのバラエティー豊かなデザインの飾り金具のほか、手や角金具、蝶番、錠前など1棹の箪笥に約80個もの金具が取り付けられるのです。
岩谷堂箪笥の金具は、南部鉄器の技術を用いた鋳造製と、職人による手打ち彫りの2種類。現在では大量生産が可能な鋳造製の金具が約9割を占めますが、その伝統的工芸品を代表する匠の技のひとつが「彫金」です。
伝統的技法である手打ち彫りの金具は、金槌と鏨(たがね)。まず、絵柄の描いてある型紙を金属の板の上に貼って、表から鏨で彫り込んでいき、更に細かい線を彫っていきます。線の内側を裏から打ち出し用金槌で叩いて、絵柄を打ち出していきます。うまくできていなければ、作り直すことも(笑)。
この打ち出しと呼ばれる技法は、模様を立体的に表現するために編み出された岩谷堂箪笥の金具づくりの至芸といえます。打出しの微妙な加減によって出来栄えが決まります。例えば、龍や獅子をモチーフにした模様なら、今にも飛び出してきそうな躍動感を与え、その表情にまで魂を打ち込んでいくのです。その仕上がりの美しさは工芸品の域を超えた高い格調を備えています。
そして最後に、切り鏨や電動ノコギリで輪郭に沿ってカットして、やすりをかけ、表面の仕上げに入ります。
うまく彫れたと思っても、3日もすればあれこれと悔いが出てくる
伝統工芸士の菊池廣志氏は、この道30年以上の手打ち彫りの第一人者。その菊池氏ですら「うまく彫れたと思っても、3日もすればあれこれと悔いが出てくる」とその技の奥深さを語っています。
職人は道具である鏨も鉄の丸棒を鍛造して自作し、その数は約200種にも及びます。一人の職人が1棹の箪笥のすべての金具を彫金するため、月に3棹程度しかつくることができません。一日中、トントン、カンカンという槌音が聞こえるだけの空間の中から、平べったい金属の板に、やがて牡丹の花が咲き、獅子が踊ります。彫金金具はそれだけでも非常に精巧で美しく、芸術品といえるものです。このため手打ち彫り金具を備えた岩谷堂箪笥は全国のデパートでも高級家具として位置づけられているのです。
「私たちは日常生活で使っていただける箪笥をつくっているだけ」と話す菊池氏。しかし、一片の金属板に生命を吹き込むことで、家具としての箪笥に大きな輝きをもたらす。岩谷堂箪笥の真髄がそこにあります。