若き職人たちの挑戦
仕事に打ち込む男の姿は美しい。まして伝統工芸に携わる職人となると、力強くも器用な指先、射抜かれそうなほどの真剣な眼差し、流れる汗もそのままに作品と向き合う姿……何をとっても、ぞくっとするほど美しい。
今や「職人男子」という言葉で表される若き職人たち。羨望の眼差しで見られるも、今の世の中、職人という職業はなかなか選択されていないのが現状です。
そんな中、若き職人たちは何百年も続いたこの伝統を途絶えさせてはいけないという強い思いを抱き、伝統の中の新しさとは何かを考え続け、日々腕を磨き、邁進しています。その思いを伝えるために。
伝統工芸の課題
全国に点在する伝統工芸品の産地。経済産業省が指定するだけでも200を超えています。すべてではないにせよ、寂れる一方の日本の伝統工芸。その最大の課題が「後継者」です。ついに国勢調査でも人口が減り始めたこの国。若者の減少が著しく、そんな状況において「伝統」「修行」「努力」のイメージが強い職人への志望者はわずか。当然ながら「岩谷堂箪笥」も、同じ課題を抱えています。
「箪笥屋のせがれ」の意識

とはいうものの、悲観的な状況というわけではありません。幸いにも、岩谷堂箪笥の各製作現場には、あまり多くはないものの「若手」たちが伝統工芸を守っている風景が見受けられます。

「この家業を引き継ぐのに何もためらいはなかった」と語るのは、岩谷堂タンス製作所の13代目を担う、三品綾一郎さん。
岩谷堂箪笥の祖を先祖に持つ三品さんは、幼い頃より周囲から「箪笥屋のせがれ」の扱いをされて育ってきたせいか、少年時代は、おぼろげながらも、将来は家業を継ぐんだろうなあ、との思いがあったと言います。祖父や父の背中も素直に眺め、黙々と仕事に打ち込む職人の作業場を遊び場にして育ったそうです。
スポーツ万能だった三品さんは、成長期よりバスケットボールに魅せられます。やがて沢山の仲間や友人たちと「青春を謳歌」するようになり、伝統産業を守るという課題が薄れるようになりました。
社会人としての就職先は都会の家具店。大人になるにつれて、考え方にもぶれが少なくなり、将来を見すえての決断でした。そこで商品知識や流通、交渉術といったノウハウを学び、10年前に帰郷、父の経営する岩谷堂タンス製作所に就職します。

時代を意識した、伝統の守り方

三品さんの少年時代は、世に言う「バブル」。主な販売先である百貨店では高級家具である岩谷堂箪笥の販売業績が良く、「箪笥は売れる物」という感覚があったと言います。ところがバブル崩壊後、当然ながら販売不振の波は全国に広がり、修行を終え帰郷するころは完全に冬の時代、いわゆる「モノが売れない時代」、そして大震災。

業界の未来に暗雲が立ちこめるなか、それでも三品さんに迷いはなかったと言います。もがいているうちにも、やがて光は必ず差し込んでくると。そんな中、被災地より、震災で海水と泥を被った箪笥を再生して欲しいとの依頼が舞い込みます。見れば、先達の職人たちが丹精込めて作ったであろう立派な箪笥でした。
震災復興の一助になればとリメイクを始めたその取り組みがニュースに紹介され、ちょっとした話題となりました。その時三品さんは強く感じたそうです。伝統を守り続ける職人へのリスペクトはこういう所にも帰ってくる。だからこれからも守らなくてはいけない。

岩谷堂くらしなの商品開発も進み、岩谷堂箪笥も新たな時代へと変わっていく中、三品さんはまた別のアプローチを始めます。
岩谷堂箪笥を製作する時に出る端材を利用したブローチをはじめとしたさまざまな生活雑貨「Iwayado Craft(イワヤドウ・クラフト)」のブランドを、奥さんであるみなみさんと立ち上げました。洗練されたデザイン、そして丁寧な手仕事のぬくもりが伝わる小物は、フェイスブックといったSNSから火が付き、その話題は全国にひろがりつつあります。

日常的な小物でありながら、価格もお手頃ということで、ギフトとしても大人気とか。そこでちょっと意地悪な質問をぶつけてみました。
「そっちが人気だと、肝心の本業(岩谷堂箪笥・岩谷堂くらしな)に影響が出ないんですか?」
するとあっさりと
「もちろんその辺のバランスには細心の注意を払って、しっかりコントロールしてもらってます(奥様に)。何よりこれを始めたのは、もっと身近に、もっと気軽に岩谷堂箪笥、そして岩谷堂くらしなの魅力に触れて欲しいから。そのための一つの方法論なんです。ひと昔前なら、こういうことを、〜ぶれる〜とでも言ったんでしょうけど、これからの時代は何もしないと、ぶれる以前のお話で。」
といった答えが返ってきました。実に明快です。

箪笥の製作現場の界隈には、実は前向きで未来志向の若い職人さんがたくさん育っているようで、そういうメンバーたちが、岩谷堂箪笥・岩谷堂くらしなを後押ししている、その息遣いがふんだんに聞こえてきています。