インタビュー・・・組合長 三品健悦
岩谷堂箪笥生産協同組合の三品組合長に、岩谷堂箪笥のことを教えていただきました。
そのルーツは平泉黄金文化に

岩手県奥州市江刺区で作られる岩谷堂箪笥は、木目の奥深い美と漆塗り、そして手打ちで仕上げられる精微な金具が特徴の箪笥です。
その起源は、平泉が栄えていた頃の康和年間、藤原清衡が平泉に居を移すまでの約30年間、江刺郡豊田館を本拠地とし、産業奨励に力を注いだ時代にさかのぼると伝えられています。
記録で確認できる岩谷堂箪笥は、江戸時代の中期天明時代に岩谷堂城主、伊達村将が家臣の三品茂左右衛門に箪笥を作らせたのが始まりとされ、文政年間に、徳兵衛という鍛冶職人が彫金金具を考案したとされています。
そして江戸時代には仙台藩の政策により、特産の馬市が振興され多数の他国人が出入りし、岩谷堂箪笥の製作が盛んになったようです。

全国でも名高い箪笥の産地に

以降、岩谷堂箪笥は永い年月を経て多くの職人たちの手によって研究・開発されてきました。この江刺という土地は、古来よりケヤキ・漆・鉄の名産地でも知られていて、箪笥づくりにはもってこいの環境だったようです。仙台箪笥、大阪泉州桐箪笥と並んで、全国有数の箪笥生産地として活気に満ちていました。ある意味江戸時代が岩谷堂箪笥繁栄の頂点だったのかもしれません。

明治になると箪笥もようやく一般家庭に広まってきました。当時の箪笥はそれまでの箱型の長持や整理箪笥から棒桟箪笥に変わり、それとともに岩谷堂箪笥の需要も増大しました。
漆塗と飾り金具の美しい岩谷堂箪笥は大評判となり、北上川の下川原港から下って宮城県県北の登米地方に、さらに東北各地に岩谷堂箪笥が出荷されていきました。明治7年には、538本が生産された記録があります。大正の頃からは、重ね箪笥や、上開き箪笥などスタイルも洗練されたものが喜ばれるようになりました。

岩谷堂箪笥は、初め20戸位の業者が個々に製作していましたが、戦争で一時中断したあと、昭和27年に協同組合が生まれ、30年頃は、月産200本まで復活しました。が、その後岩谷堂箪笥生産は洋風家具に押され低迷し、36年に組合は解散しました。
しかし時代に流されることなく、伝統の技術を守っていくことこそが発展の道と確信し、苦しい時代を乗り切りました。昭和40年代初めに東京のデパートでの展示会を契機として、首都圏を中心とする都市生活者の需要を開拓しました。そして再び伝統家具のよさが見直され始め、42年に三品栄氏が中心となり岩谷堂タンス生産組合が組織され、江刺市の6業者が結束して生産を続け、51年4月には盛岡の2業者も参加し、岩谷堂箪笥生産協同組合を結成しました。
さらに昭和57年には厳しい審査を受け、通商産業大臣指定伝統的工芸品の指定を受けることができました。生産量も年々増加し、平成9年に於いては、6118本、7億7千万円に達しました。平成18年9月現在、木工塗装部門4、彫金部門1の5業者でその伝統を守り続けています。

岩谷堂箪笥の魅力

岩谷堂箪笥の魅力といえば、何と言ってもその意匠、上品で透明感のある塗り、そして格調高い金具、それらのバランス美にあります。
岩谷堂箪笥の意匠は永い年月を経て多くの職人たちの手によって研究・開発されてきました。江戸時代後期の岩谷堂箪笥を現在の岩谷堂箪笥のデザインと比較すると質素な印象を受けます。岩谷堂箪笥の種類は、三尺、三.五尺の整理箪笥を基本としていますが現在では、洋服・衣裳・整理箪笥の三点セット、茶箪笥、書棚、小箪笥、座卓など多くの箪笥が生産されています。
珍しい箪笥としては、階段にも利用されたという上面が段々になった階段箪笥。船に積み込んで金庫の代わりを果たしたという頑丈な舟箪笥。火事などの非常時に移動しやすいように車がついている車箪笥(車付箪笥)などその種類は多く、見るだけでも興味のそそられる箪笥があります。

岩谷堂箪笥の漆塗りには代表的なものに、拭き漆塗りと木地蝋塗りの2種類があります。
拭き漆塗りも透明の木地蝋塗りも、どちらも多くの手間がかかります。この漆塗りの工程が岩谷堂箪笥の欅の木目の美しさをいつまでも保つのです。何年も経て次第に欅も木目が見えてきます。まさに漆がさえてくるのです。時を経るほど、独特の風合いが醸し出されるのも、本物の漆塗りならではの味わいといえますね。

そしてもう一つの大きな特徴、飾り金具。この金具には「手打彫り」のものと、南部鉄器金具のものと2種類あります。一棹の箪笥に60~100個ほどの金具が飾られますが、鮮やかに浮き彫りされた絵模様は堅牢さはもちろん、岩谷堂箪笥としての格調を高めています。絵模様の種類には、龍、花鳥、虎に竹、唐草、松竹、桐、ボタン等があり、最近は、お客様の家紋等、ニーズに応えたデザインを開発しております。

結局、誰に語らせても同じことを言うでしょう

ということで、岩谷堂箪笥は実にわかりやすい家具なのです。職人や関係者100人に質問しても、おそらく返ってくる答えはみな一緒。その風貌に興味を示し、その輝きに魅せられる、そういうことなんですね。それは手にするお客様でも同じだと思います。

だから、いい加減な仕事は絶対に許されない、ましてや、手を抜くという発想すら持っていないんです。それはやっぱり歴史に裏付けされた伝統と伝承があるから。職人の誇りは、箪笥と同じくらい頑丈にできている、と言えますね。