岩谷堂くらしなの誕生〜伝統的工芸品の新たな試み

岩谷堂くらしなの誕生〜伝統的工芸品の新たな試み

岩谷堂くらしなのはじまりは2010年。そのきっかけから商品誕生にいたるまで。
新しいものづくりの在り方を模索する「伝統的工芸品」
古くから受け継がれてきた技を用いて作られる品々には、普遍的な良さがあります。しかし、伝統工芸であるか否かにかかわらず、既存の商品を大切にしながら新しいものをどう作り出すかはメーカーにとって大きな課題で、それを乗り越えるためにデザインの力が必要となります。

「伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)」に基づいて指定されている「伝統的工芸品」は全国に200品目以上。ここでいう「伝統的」とはおよそ100年以上の継続を意味しますが、すべての手法が全く昔のままというわけではありません。原材料や技術・技法の主要な部分を継承しつつ、産業環境に適するように改良を加え、時代の需要に即した製品作りがされるものも含まれます。また、現代感覚の商品作りも推奨され、2007年以降は財団法人 伝統的工芸品産業振興協会が「伝統的工芸品活用フォーラム事業」を開催し、デザイナー・プロデューサーと作り手のコラボレーションによる新商品開発の機会を作り出しています。

岩谷堂箪笥が取り組んだ「新しい」商品開発
さて、2010年のフォーラム事業で選ばれた作り手の一つ、岩手県の岩谷堂箪笥は、漆塗りの箪笥に美術品のような手打ち金具をあしらったデザインで有名です。知名度は高いものの、漆塗りの箪笥は決して安い買い物ではなく、若い人には手が出にくいもの。作り手の岩谷堂箪笥生産協同組合は「伝統的なものづくりの良さがわかるのは、年齢を重ねてから。50歳近くになって目が肥えれば顧客になってくれるが、その手前の層にもアピールできるインテリア小物が作れたら」という希望を持っていました。しかし、箪笥づくりには精通していても小物を作った経験はなく、全く新しい分野への挑戦となります。良い出会いがあれば、と参加したフォーラムで応募者の中からパートナーに選ばれたのは、インテリア用品の開発でも実績のある家具デザイナーの阿部和美さんでした。
半年間でどこまでできる? 開発~試作~お披露目までの道のり
2010年のフォーラム事業のスケジュールは、作り手とデザイナーの交流会が6月にあり、デザイナーからのプレゼン、それを受けて作り手がパートナーを選んでフォーラム事業の事務局がGOサインを出すのが7月、そこから実際の開発に進み、成果の発表は2011年2月のギフトショーと決まっていました。お披露目までは約半年。かなりアップテンポで話を進めなくてはなりません。阿部さんはまず「できること」の把握から始めました。

「できること」の把握
岩谷堂箪笥生産協同組合は、箪笥づくりにかかわる5社で構成されています。木材の加工から手打ち金具の製作まで一貫して行う会社もあれば、彫金のみを行う会社もあります。5社それぞれに新商品を提案すべく、そのためには、どの会社が何を得意とするのかを知る必要がありました。まずは月に一回、岩手県まで足を運んで作り手の仕事を把握。同時に「何がやりたいか」を細かくヒアリングしながらデザインのイメージを固めます。

デザインサンプルの提示~1回目試作
9月にはデザインの提示を済ませ、10月初旬の打ち合わせには1回目の試作品が並びました。現物を前にして使用時の問題点を整理し、小物入れを重ねた時の寸法的な不具合などは、可能な限りその場で対策を決めてしまいます。また、時計を作ることになっていたので、次の試作に使う時計の針を数種提示して手配の段取りをセット。これらは阿部さんに開発のノウハウがあるため信じられない速さで進んでいきましたが、なにしろ5社分です。私はこの10月初旬の打ち合わせの見学をさせてもらいましたが、午後1時過ぎから始まった会議は、休憩を挟む余裕もなく、あっという間に終わりの時間。最後には、いつまでに何を確認すべきかのスケジュール配分も阿部さんが行っていました。デザイナーの仕事は想像以上に幅広い。デザインだけでは済まないのですね。

撮影、値決め、パッケージデザインから展示会へ

年末には、作りこんだ試作品が完成しました。完成一歩手前の状態です。この後の最終確認でディテールは少し変更になるかもしれませんが、今後、大きく変わることはないはず。2月初旬には展示会があるので、パンフレット用の撮影を行います。試作の最終調整は、1月に入ってすぐ。この時の打ち合わせで価格を決定し、パッケージデザインも決めました。あとは展示会に向けて急ピッチで製作が進みます。阿部さん側では最後の仕上げのパンフレットの製作。展示会から逆算して入稿し、無事2月のギフトショーを迎えることができました。

 展示会での反応は上々で、会期中にいくつものオーダーがあり、300もの大口注文まで舞い込みました。岩谷堂箪笥生産協同組合では毎年フォーラム事業に参加し、何らかの展示会に出展していましたが、「ここまで良い反応は今までになかった」と満足げ。もっとも、これまでは大きな家具を提案していたので、すぐに買い手がつくという性質のものではなかったのですが、これまで取り組んでいなかったインテリア用品を、という組合の狙いが見事に的中した形です。

未来に向けてのデザインを

岩手県を含む東北地方では、3月11日の地震の影響で、ものづくりの現場にも影を落としていると聞きますが、幸い岩谷堂箪笥生産協同組合では大きな被害がなく、新たな商品開発に乗り出しています。今回評判の良かった小物をさらに充実・洗練させていく予定とのこと。伝統的工芸品の作り手が取り組む成功事例として、また話を伺わせていただく機会があればいいなと思います。

(文:くろだあきこ JDN:ニッポンの家具のデザイン寄稿文より)

くろだあきこ インテリアコーディネーター

実家にあった「暮しの手帖」のバックナンバーを眺めて育ち、「住まい」や「暮らし」のことを考えるのが大好きだった子供時代。 中学卒業後に入学した国立高専(5年制の、高校+短大みたいな専門学校)から、大学、大学院まで、専攻はずっと建築でした。 インテリアコーディネーターの資格を持ち、インテリアショップめぐりは趣味のひとつです。これまでに訪れたことのあるショップは、全国各地と海外合わせて300以上。現在は会社勤めをしながら、フリーのライターとして雑誌づくりなどに関わっています。 また、整理収納アドバイザー1級を取得し、片付けやすい&美しい部屋作りのコツについて専門家の立場からアドバイスしています。読売新聞「私・空間」持ち回り連載のほか、雑誌やwebで活動中。