若き職人たちの挑戦〜佐藤俊博

若き職人たちの挑戦〜佐藤俊博

仕事に打ち込む男の姿は美しい。まして伝統工芸に携わる職人となると、力強くも器用な指先、射抜かれそうなほどの真剣な眼差し、流れる汗もそのままに作品と向き合う姿……何をとっても、ぞくっとするほど美しい。
今や「職人男子」という言葉で表される若き職人たち。羨望の眼差しで見られるも、今の世の中、職人という職業はなかなか選択されていないのが現状です。
そんな中、若き職人たちは何百年も続いたこの伝統を途絶えさせてはいけないという強い思いを抱き、伝統の中の新しさとは何かを考え続け、日々腕を磨き、邁進しています。その思いを伝えるために。
やんちゃ坊主が感じたギャップ

学生時代はヒップホップのダンスにはまったりしていた、ごく普通の「今時の若者」が、何の因果か、日本の伝統と「地道さ」を重んじるこの世界に飛び込んで早十年。もう決して若者ではないんだなあと感じるようになったと言います。仕事を終えて家に帰れば、妻と一粒種の息子が待っていて、平凡な暮らしにも慣れてきたと言います。そんな青年ですが、決して何も感じてきたわけではなかったようです。

先輩達に話を聞くと、誰もが「昔は良かった、儲かって儲かってしょうがなかった、だから仕事に夢中になれた」と得意になって話すそうです。いわゆるバブルに象徴される、景気の良かった時代のこと。

職人さんのほとんどが、そんな時代に生きてきたわけで、当然今の時代を嘆き、堪え忍んでいるんですが、彼にはどうもピンとこないようで。なぜなら、彼は日本の好景気を知らない世代なのです。

業界の未来のイメージができなかった

家具づくりなので当然、設計図やデザインに基づいて仕事をするわけですが、自分の手がけているものが、いわゆる高級家具、正直なかなか親近感がわかなかったようです。「お金持ちが買うもの」であり、慎重になりすぎて手が震えたことも。もちろん仕事に誇りはしっかりと持っていましたが、伝統工芸という重しも、けっして簡単に外せるものでもなく、不景気の真っ只中にあの震災。いちばん力がみなぎり、技術を習得できる20代の中盤は、毎日が曇り空のイメージだったとか。当然10年後、20年後の、賑わう業界の姿は想像できなかったとか。

くらしなで、暮らしが変わるかもしれない

日頃より、奥さんや家族が欲しがる物、しかも無理せずに買える物を作りたい、と思っていた佐藤さん。もちろん自分が作る物はみんな素敵なものなのだけど、いかんせんリーズナブルではないし、何度も買い換えたりするものでもない、などと頭の中が堂々巡りしている中、飛び込んできた話題が、モダンでリーズナブルな生活雑貨の商品開発「岩谷堂くらしな」でした。
話を聞けば聞くほど、今までにない新鮮な「何か」が心を揺さぶるのです。よくわからないけど「楽しそうかな」と。そして程なく確信を得ることになりました。「奥さんや家族、友達だって買ってくれるモノ」であり「でも岩谷堂箪笥が守ってきた香りや味わいを確実に引き継ぐモノ」であり、そして「これから自分たちの世代が創るモノ」であると感じたのです。
幸いにも、「岩谷堂くらしな」はいろいろな意味で縛りが緩く開放的で、しかも自分のイメージやデザインをどんどんデザイナーに進言できるのは、今まであまり経験できたことではなく、何か新社会人に似たような感覚も芽生えました。
「もしかして、何かが劇的に変わるかもしれない」初めて感じた未来へのイメージ。これが若き職人が感じた「くらしな」でした。